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月刊 世界のチーズ Vol.9 Pecorino Sardo Maturo(ペコリーノ・サルド・マトゥーロ)


●Pecorino Sardo Maturo
 ペコリーノ・サルド・マトゥーロ
■ヨーロッパで最も古い羊の1つサルダ種の脱脂しない全乳から作られる羊乳製チーズ。いくつかのイタリアチーズに見られるように「ペコリーノ・サルド」には2つのタイプ(ドルチェとマトゥーロ)が存在し、製法、サイズ、熟成、風味や味わいが異なりますが、2つ合わせてイタリアのDOPチーズとして認定されています。ひとまわり小ぶりでマイルドなドルチェタイプに比べてマトゥーロは力強くシャープな味わいが特徴。熟成の段階によって状態が変化し、肌理細かい表皮はムギワラ色~茶色、小さなチーズアイが散在する生地はアイヴォリーホワイト~淡いムギワラ色を呈します。
■原料乳:羊乳(57~68℃×10~20秒加熱した乳(後述)または殺菌乳)
■固形分中乳脂肪:最低35%
■熟成期間:最低2ヶ月(粉にすりおろす場合は最低4ヶ月※)
■大きさ・形:直径15~22cm、高さ8~13cm、重さ1.7~4kg
■原産地:イタリア、サルデーニャ島
※ペコリーノ・サルドには粉にすりおろした場合のDOP基準も設けられており、原材料が4ヶ月以上熟成させた「マトゥーロ」であること以外に水分値が42%以下であること、表面から約6mmの部分を外皮とみなして製品に含まれる外皮が18%以下であること等の条件が盛り込まれている。また、協会の認定した工場であればサルデーニャ島外の工場でもDOP認定のパウダー加工が可能。

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GEOGRAPHICAL AREA

「ペコリーノ・サルド DOP」の原料乳産地、製造地域、熟成地域はサルデーニャ自治州の全領土です。


サルデーニャ(イタリア語: Sardegna)は、イタリア半島西方、コルシカ島の南の地中海に位置するイタリア領の島。地中海ではシチリア島に次いで2番目に大きな島である。サルデーニャ語の発音から「サルディーニャ」、或いは英語の発音から「サルディニア」とも表記される。

The Oldest Cheeses in Sardinia

ペコリーノ・サルドはサルデーニャで最も古いチーズの1つです。
サルデーニャの歴史は、紀元前20世紀頃に東地中海からやって来たとされるヌラーゲ(Nuraghe)人がこの島に上陸し生活しはじめたことが起源とされていますが、当時のものとされるブロンズ像には牧羊を象ったと思われるものが発掘されており、ヌラーゲ文明(※1)の時代に島の住民が羊の繁殖に専念していたことを示しています。



※1)ヌラーゲ文明(The Nuragic civilization, also known as the Nuragic culture)紀元前 18 世紀 (青銅器時代) から紀元前 238 年のローマの植民地化まで続いたとされるサルデーニャの古代文明。 ヌラーゲは、紀元前 1800 年頃から古代のサルデーニャ人が大量に建設した塔と要塞のタイプの建造物で、文明の名はこの建造物の名に因んでおり、今日でも7,000 を超えるヌラーゲがサルデーニャの風景に点在しています。


 


ペコリーノ・サルドPDOの発祥に関する歴史的記録がはじめに登場するのは、18世紀の終わりにまで遡ります。記録によれば島で作られていたチーズにはビアンコ(Bianco [White])、ロッソ・フィーノ( Rosso Fino [Fine Red])、アッフミカート(Affumicato [Smoked])、フレーザ(Fresa)、スピアタートゥ(Spiatatu)と呼ばれる5つのチーズが登場しますが、この内ロッソ・フィーノとアッフミカートは無殺菌乳または真っ赤に焼いた石で熱処理された乳から作られており、現在のペコリーノ・サルドの原型であると言われています。

La Pecora Sarda

2021年現在、サルデーニャには3つのDOPチーズが存在します。
ペコリーノ・サルド、ペコリーノ・ロマーノ、フィオーレ・サルド


これらはどれも羊乳を100%使用して作られたチーズで、牛乳製チーズに比べて性質が異なります。乳糖の割合はどちらも似通っていますが、羊乳は脂肪とタンパク質の質と量が著しく高いのが特徴です。牧草飼育のおかげでビタミン A が多く含まれており、固形分が多いために粘度が高く、ミルクの色は磁器のような白になります。


Pecora Sarda(ペーコラ・サルダ、Sardinian (sheep):サルディニアン(シープ)、以降ここではサルダ羊と呼称する)は、ヨーロッパで最も古い羊種のひとつで、サルデーニャ原産。1960年代にはイタリア中部の放棄された農村地域にサルデーニャの羊飼いが移住したため、トスカーナ、ラツィオ、ウンブリアをはじめとしたイタリア半島の一部地域にも広まりました。現在はイタリア全国の52%、サルデーニャ内では95%がこのサルダ羊です。

▼現在もヨーロッパに広く存在する野生のムフロン種(写真左)、右はサルダ羊


サルダ羊はこのムフロン種が家畜化されたものと言われており、野生のムフロンの子孫は現在も島の中央および遠隔地に多数存在し、進化の過程で丘陵と山岳の形態を特徴とする野生の領土に完全に適応しました。サルダ羊の生息地は主に島の典型的な地中海の低木で構成されており、茂みや野生のハーブが特徴の大きな牧草地です。その起源は4,000年前まで遡り、乳、肉、羊毛の生産のために羊飼いによって飼育されてきました。

Thermization or Pasteurization

ペコリーノ・サルドDOPは羊の全乳から作られますが、原料乳の処理についてDOP規定には「termizzato o pastorizzato(英語:thermised or pasteurized)」とあります。


Thermization(サーミゼーション(低温加熱)、イタリア語 termizzazione:テルミザシオーネ)という言葉は日本の乳製品ではほとんど聞きませんが、フランスやスイスなどのチーズ作りではしばしば見かけます。無殺菌乳<低温加熱<低温殺菌といった感じで無殺菌乳と殺菌乳の中間のような取り扱いから、とりわけその土地の個性を反映させるチーズに使われます。

Semi-cooked

「ペコリーノ・サルド」についていろいろな文献を紐解いてみると、「Semi-cooked(イタリア語:semicotta)」という表現が目につきます。

いわゆるハードタイプと呼ばれるチーズは型に入れてプレスすることで目の詰まった硬い生地に仕上げたものですが、型詰め前の加工(凝乳をカットして生地に含まれる水分を排出する工程)で加熱しないものを非加熱圧搾(セミハード)、加熱するものを加熱圧搾(ハード)と分類することがあります。

▼下の写真はパルミジャーノ・レッジャーノチーズ(ハードタイプ)の加熱の様子


凝乳酵素で固めた生地(カード)を細かく破砕した後、銅製の釜の中で55℃まで加熱しながら撹拌することで生地に含まれる水分(ホエイ)を排出します。パルミジャーノ・レッジャーノの加熱撹拌工程は濛々と立ち込める湯気の中で行われます。

▼こちらがペコリーノ・サルドの撹拌(semicotta:半加熱)の様子


ペコリーノ・サルドのDOP規定によると、原料乳にスターター(※2)を加えて発酵させた後、仔牛のレンネットを加えて35°-39°Cの温度で約35〜40分硬化させます。その後「ドルチェ」の場合はヘーゼルナッツ、「マトゥーロ」の場合はトウモロコシの粒大までカードを破砕し、43℃を超えない温度で撹拌します(これがsemicotta)。


※2)スターター(starter)発酵の開始のために加える微生物の集団を含んだもの。ここでは牛乳の中の乳糖を材料に多量の乳酸を産生する乳酸菌の仲間で、ヨーグルトやチーズの「種」と呼ばれるもの。


 

Maturation and Labeling


ペコリーノ・サルドの熟成条件は特別な熟成室で室温6~12℃、湿度80~95%の条件で行うことが指定されており、ドルチェの熟成期間は20~60日、マトゥーロは最低2ヶ月後の出荷の際、仕様の要件を満たしているかどうかの試験が行われ、これにパスすると大文字で「PS DOP」と書かれたスタンプが押されます。



※DOP規定によると、このスタンプに使用されているのは"inchiostro alimentare indelebile(消えないフードスタンプ)"とありますが、ペコリーノ・サルドはドルチェ、マトゥーロの別に関わらず、表面に防カビ剤やオイル処理を施すことが許可されています。また無色のコーティング剤や天然着色料の使用が認められており、マトゥーロの場合は燻製することもできます。そのためか、このスタンプは最終製品ではほとんど確認出来ず、そのトレーサビリティはDOPラベルに引き継がれます。




古代のチーズは何世紀にもわたってその技術が洗練され、伝統の継承とともに新たな技術が導入されていきました。19世紀から20世紀の間、特に1960年代にはその動きが顕著で、温度計の使用、ミルクのろ過、液体レンネットの滴下など。そして最新の機械と技術革新のおかげで熱処理、カードのsemicotta(半加熱)の時間が基準化され、天然の乳酸菌からの選択培養、レンネットの選択によって衛生基準が飛躍的に向上したことで最終製品の市場が大きく拡がりました。


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CATEGORY: 月刊 世界のチーズ