月刊 世界のチーズ Vol.7 Cantal(カンタル)
●Cantal / Fourme de Cantal カンタル / フルム・ド・カンタル
■オーヴェルニュチーズに典型的な円筒形のチーズ。グラン・フォルマ(grand format)と呼ばれる大きな型で概ね直径40cm、高さ40cm、重さ40kgのチーズとなります(40kgのカンタルひとつに400Lの牛乳が必要)。「カンタル」または「フルム・ド・カンタル」の名でひとつのAOPをもっており、乾いた表皮、レンネットによって凝固された生地をもつ非加熱圧搾(セミハード)タイプ。一度固めた生地を破砕して加塩してから型詰めしてプレスするというのが製法上の大きな特徴。この製法の為、クランブル状に砕けるやや脆い生地となりますが、熟成するにしたがって象牙色から濃い黄色となり、硬く詰まった濃い味わいになります。
■原料乳:牛乳(無殺菌乳または殺菌乳※1)
■固形分中乳脂肪:最低45%
■熟成期間:最低30日(熟成期間はレンネット添加日から起算)
熟成期間の長さによって3段階で区別される
Jeune(ジュンヌ:若い) 最低30~最大60日(固形分57%以上)
Entre-deux(アントル=ドゥー:中間) 最低90日~最大210日(固形分58%以上)
Vieux(ヴュー:古い) 最低240日以上(固形分60%以上)
■大きさ・形:直径40cm、高さ40cm、重さ40kg!!!(grand format:大判)
直径20~22cm、重さ8~10kg(format réduit:小型版(プチ・カンタルとも))
■原産地:フランス、オーヴェルニュ地域圏カンタル県(およびその周辺)
※1)カンタルの製造において、かつてはサレール牛の乳のみを原料としていましたが、現在はブラウンスイス、シメンタール、アボンダンス、オーブラック、タランテーズといった他品種の乳を少量加えて良いことになっています。ただしAOPに指定されている地域以外で生まれ育った牛の乳は使用できません。 また、サレール乳を100%使用して製造した場合、製品ラベルに「サレール乳製のカンタル」と表示することができます。
RECOMMENDED
そのままお召し上がる他にお料理の素材として使われることが多く、特にジャガイモとの相性は抜群です
Aligot (Tomme fraîche d’)
「アリゴ(aligot)」と呼ばれるフランスの中南部オーブラック(l'Aubrac)地方の郷土料理は、マッシュポテトに”トム・フレッシュ※2”、生クリーム、バターを加えて作られます(ニンニクを加えることもあり、カンタルから作るレシピもあります)。
チーズが融けてつきたてのお餅のようにのびるのが特徴。お肉料理の付け合わせ等に使われます。
※2)トム・フレッシュ(tomme fraîche、またはトム・ダリゴ(tomme d'aligot)、あるいは単にアリゴ(aligot)とも)は、オーブラックのチーズ(カンタルまたはサレール、ライオル)の製造過程で作られる加塩や型詰めする前のカード(凝乳)を指す
前述の通り、カンタルはその製造工程でカードを二度プレスされます。
はじめのプレスでカードを脱水してその後破砕、乾塩で加塩後に型詰めして二度目のプレスを行います。この製法はカンタルと同じオーブラックのチーズ、サレール、ライオルも同じで、このはじめのプレスの後にできた加塩前のカードが「トム・フレッシュ」=「アリゴ」となります。
▲写真はカンタルのトム・フレッシュ
AOP / AOC
保護原産地呼称(AOP:Appellation d'Origine Protégée (アペラシオン・ドリジン・プロテジェ))は現在、日本でも導入されている地理的表示(GI)のモデルとなった制度です。
ワインやチーズ、農産物などに対して、土地由来による差別化を認定するための制度のひとつで、指定された地域、製法で生産されることが求められます。簡単に言うとこの制度によって「カンタル」と名乗ることのできる条件が定められています。
「カンタル」または「フルム・ド・カンタル」というAOP呼称はカットチーズやシュレッドチーズにも使用して良いこととされていますが、以下の条件があります
・加工後の販売サイズが70g未満の場合はNG
・製品内に外皮を必ず含むこと
・熟成段階(ジュンヌ、アントル=ドゥー、ヴュー)の異なるものを混ぜてはならない
※カンタルは1956年にAOPの前身であるAOC(Appellation d'origine contrôlée(アペラシオン・ドリジン・コントロレ))を取得しています。
Massif Central
カンタルの起源はMassif Central:中央山塊(中央高地とも)と呼ばれる一帯です。
南フランスに位置し、フランス本土の約1/6を占める山地や台地からなる地域です。
1万年前に終了した火山活動の結果、sillon rhodanien(ローヌ川のみぞ)と呼ばれる裂け目によって中央山塊の山地はアルプス山脈から切り離され、東のアルプス山脈と西のピレネー山脈の間に位置しています。カンタルの生産地域であるカンタル県およびその周辺地域は中央山塊の一部とされています。
History
カンタルの歴史は古く、公式にその名が登場するのは1298年に遡ります。当時はプロン=デュ=カンタル(Plomb du Cantal※3)周辺の牧草地帯で毎春放牧されるサレール牛のミルクを使ってビュロン(buron)で作られていました。
ビュロンとは標高の高い山中に建てられた石造りの建物で、スレートで固められています。カンタルやオーブラックの山に多くみられ、5月中旬~10月中旬にかけて酪農家が利用しており、高地での放牧を行いながらカンタル、ライオール、フルム・ドーブラックやサン=ネクテールといったチーズの製造に使われていました。
※3)プロン=デュ=カンタル(Plomb du Cantal)は、カンタル山脈の最高点。 海抜1,855mは、ピュイドサンシー(1,885m)に次ぐ中央山塊で2番目の高さ
18世紀にディドロとアランベールによって編まれた『百科全書』(L'Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, par une société de gens de lettres)には、「Cantal」ではなく「Quantal」の名称で登場します。
【一部抜粋】
La Haute-Auvergne fournit une très grande quantité de fromages, tout de lait de vache. II y en a de gros et de petits. Le gros, que l’on appelle ordinairement «Quantal» à cause d’une montagne de ce nom, située entre Saint-Flour et Aurillac, ou il s’en fabrique le plus, est du poids de trente à quarante livres. On le nomme aussi tête de Moine à cause de sa forme qui est haute et ronde.
またこの『百科全書』にはカンタルチーズの作り方が全ての器具の図解と一緒に掲載されており、その製法は現代でも受け継がれていることが分かります。
Cantal vs Salers
オーヴェルニュ地方にはカンタルにそっくりなチーズがあります。
その名は「サレール(Salers)」
サレールはその名の通りサレール牛のミルクから作られます(100%サレール乳)。
▼カンタルとサレールは生産地域もほぼ同じ
カンタルとサレールはそれぞれ別のAOPを持っていますが、サレールは製造期間が限定されている為、冬の期間に製造したものは「カンタル・フェルミエ」として販売されます。また、カンタルはAOP名称以外に3つの熟成段階「ジュンヌ、アントル=ドゥー、ヴュー」のいずれかを記載することとされていますが、記載する名称は熟成庫から出荷される時点で決められます。
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